いちたすにぶんのいち

文体も内容も頻度もむちゃくちゃ

自由に生きるとは(江國香織『思いわずらうことなく愉しく生きよ』)

めずらしく読書感想文を書くことにする。なんか書かないといけない気になった。

先に断っておくと、その話は少しだけだけど、わたしは多少DV萌えの気がある。


どんな本

読んだのは江國香織の『思いわずらうことなく愉しく生きよ』だ。 数年前に「カレ・夫・男友達」というタイトルでNHKでドラマ化されてた。別にそれを見ていたわけではないけど、たまたま見たシーンが印象的で、そこで原作を知った。

どのシーンかというと、ユースケ・サンタマリア木村多江を後ろから抱きしめ手を這わせるところである。何が良かったのかビビッとくるものがあって調べたら、DV夫の役だというので、納得した。一瞬でもこういう作品を嗅ぎ分けるのは得意だ。

もっとメンヘラぽいかと思っていた

というわけで、基本的に薄暗い恋愛小説を読むつもりで読み始めたけど(一応三姉妹の話であるのは把握していた)前半はびっくりするくらい記憶にない。数年のうちにわたしの精神も変化したのか、DVにも素直に萌えられないし、年齢差のせいか共感もしづらく、話に起伏がなくて退屈だ。

あ、この本面白いかもと思ったのは麻子が家出してからだ。その辺からだんだん「分かる」が増えていった。話としても状況が動いて引きがある。

分かるといっても、たぶん共感するというよりは、「あなたってそういう人だよね」という「分かる」だろうと思う。三姉妹の生き様を見てきて、ようやく思考の流れを掴んだのだ。

残りはすっと読めた。紆余曲折を経て、それぞれにささやかで大きな(この印象は文体によるところも多いだろうが)変化が訪れる。

ハッピーエンドでもないしバッドエンドでもない。物語の最後で会っている男と添い遂げる未来も、別れる未来も簡単に予測できる。人生にはそれくらいの起伏があってしかるべきだ。

突然のニーチェ

思いわずらうことなく愉しく生きよ、というのは三姉妹の家訓だけど、享楽的に過ごすのとは違う。現実の不幸から目を背けることでもない。

こんなところで突然ニーチェを持ち出すのは気持ち悪いが、彼の説のうちに超人思想というものがある。詳しいことはwikipediaにお任せしたいし、わたしも理解しているとは言い難いが、三姉妹の生き方はそれに近い気がする。


自分の意思で生きる、というのは難しく、世間の波は簡単に我々を飲み込む。

三姉妹は己を取り戻し、己を貫き、己を見つけて、確固とした自分に寄り添っている。

半端な励ましや同情しかできないわたしたちは、ただ憧れを持って、あるいはその家訓を胸に、いつかの未来を想像して彼女たちを見つめるのだ。